しとしと、しとしと。

それは、降り続く雨のように。












出会ったのは、まだ冬の肌寒さを残した、春。

突然の雨に、帰ろうにも帰れず、しばらく雨宿りでもするか、と甘味処に入ったときだった。

おそらく俺と同じ状況だったのであろう、彼女は、その長い髪を雨に濡らし、どうしたものかと空を仰いでいた。

ただ、それだけだった。

けれどそれは、俺の足と思考を停止させるのには充分で。

気がついたら、声をかけていた。


「天気予報では、1日快晴だったんですけどねィ」

「え?」


突然後ろから話しかけられたことに、一瞬だけ肩を震わせた彼女は、

振り返って俺の姿を見ると、柔らかく微笑んだ。


「突然降りだして・・・。真撰組さんも大変ですね。」

「おかげで帰るに帰れないんでさァ」


つられるように、俺の頬も緩んだのがわかる。

彼女は一言、あら、と漏らした後、


「それで甘味処に道草ですか?」


そう言って、フフ、と笑った。


「よかったら、一緒に団子でも食いませんかィ?」


思いついたようにそう誘えば、口癖なのかもう一度、あら、と呟いて、


「真撰組さんの、奢りなら。」


そう言ってまた、フフ、と笑った。












「美味しかったです。どうもご馳走様でした。」


そう言って小さく頭を下げる彼女は、初めに見た柔らかい微笑みを浮かべていた。

自分でも気付かないほど、見惚れていたらしい。


「・・・真撰組さん?」


その呼びかけに、はっとなって返事をする。


「いや、たいした金額じゃないんで、大丈夫でさァ」


的外れな返事をしてしまった気がしたが、訂正する余裕はなかった。

彼女は笑って、もう一度頭を下げる。


「ありがとうございました。」


雨はもう、止んでいた。


「雨、止んじまいましたね。」

「ええ、すっかり。」

「狐の嫁入り、ってやつですかィ」

「フフ、そうですね。」

「・・・・・・」

「真撰組さん、」

「沖田、」

「え?」

「沖田、総悟でさァ」


そういえば、名乗っていなかったな、と思った。

それから、そういえば、名前も訊いていなかったな、と思った。


「沖田、さん。」

「アンタは?」

「え?」

「アンタの、名前を教えてくだせェ」


満を持して、とばかりに尋ねた俺に、

最初こそポカン、としていた彼女は、フフ、と笑った。


、といいます。」

、さん」

「・・・はい?」

「また、ここの甘味、食いにきませんか。」


深呼吸して、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

すると彼女―― さんは、ゆっくりと返事をくれた。


「沖田さん・・・総悟さんの、奢りなら。」












しとしと、しとしと。

俺の心を侵食していく。








僕 は 春 雨 に 恋 を し た








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意外とちゃっかりしたヒロインさん。
総悟が総悟でない件については、もう何も言うまい。
銀魂で初短編にしては何も考えずに書いてしまったので内容が薄い。
ちょっと創作から離れすぎたかな・・・リハビリも兼ねて。

2010/07/17 桐夜 凪
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