チンッ トースターの音で目を覚ます。 枕元にあったメガネをかけてゆっくりと体を起こせば、 ほんのりと香るジャムの匂いと、 「あ、起きたんだ。おはよう、」 「・・・おはよ、シャル」 いつもみたいに、君が笑いかけてくれて1日が始まる。 きみのとなり 「今日の予定は?」 焼きたてのトースターに、たっぷりとストロベリージャムを塗りながら、 コーヒーを淹れてくれている目の前のシャルに声をかける。 「んー?今日は特に何も無いよ。」 何?どっか行く?久しぶりだし。 そう言って微笑みながら、淹れ終わったコーヒーを私に差し出した。 「ありがと。・・・いや、ゆっくりしたい。」 「そう?まあ、最近はも俺もずっと仕事だったしね。」 「・・・昨日、美術品盗りに行ったんでしょ?どうだったの。」 「ああ、思ったほどじゃなかったよ。」 拍子抜け。 と言う声に、そう、と呟けば、も来れば良かったのに、と。 冗談じゃない。面倒だ。 内心ではそう思うが、特に口には出さない。 曖昧な微笑で返すが、多分、気付いているだろう。 「も団員なんだから、もう少し仕事しようよ。」 「気が向いたらやってるじゃん。」 それで充分だ、とコーヒーを口に含む。 そんな私に、彼は苦笑するが、気にしない。 「団長が聞いたら何て言うか・・・」 「クロロには言ってるよ、ちゃんと」 「どうだか。」 「・・・そんなことより、シャル」 「(そんなことよりって・・・)ん?」 今日は家でゆっくり、と思っていたが、 目の前に広がる透き通る青を眺めて、たまには外出もいいと目を細めた。 「急に海に行きたいだなんて、どういう風邪の吹き回し?」 「ただの気まぐれ。」 「何それ」 フッ と、シャルは鼻で笑った。 それに少し腹が立って、海水をぶっかけてやった。 「なっ!」 「鼻で笑うな」 「いやいや・・・気まぐれって言われて笑わない方が・・・―― ぶっ」 単純に楽しくなって、次々と海水をかけていく。 かけられることに抵抗が無くなったのか、 最初こそ逃げてばかりだったのが、反撃し始めたシャル。 「こんなに濡れたら一緒だ。入っちゃおうか、!」 「・・・は?」 腕をつかまれ、引き寄せられて。 気がついた時には、既に海の中だった。 「っは・・・何すんの!」 「あははは!」 落とすことはないだろう、と抗議してみるものの、 シャルはただひたすら笑うだけだった。 しかし、それも何だか楽しかった。 「、やっと笑った。」 「え?」 「一昨日の仕事から帰ってきてから、笑ってなかったよ。」 「・・・・・・」 私が所属するのは、あの悪名高き幻影旅団だ。 基本的に、皆殺し。 分かって入団したし、殺しを実行したこともある。 だが、やはり気持ちの良いものでは無い。 「シャル、」 「ん?」 人を殺した後は、不安になる。 その度に、私の隣には必ずシャルがいてくれるから、 壊れそうな心は、また安定する。 「もし、・・・もし私が、発狂でもしたら、その時は躊躇わずに殺して。」 「・・・は?何言ってんの。」 「・・・・・・何、言ってんだろうね。」 紛れも無い本心だ。 旅団にいることは苦ではないが、いつかきっと私はおかしくなる。 人を殺せる私は、いつか人に殺されるのだろう。 けれど人を殺せる私は、人を愛している。 だからこそ、誰かに殺されるのなら、私は愛する人に・・・―― シャルナークに殺されたい。 「・・・シャル、帰ろう。」 「今日のは、おかしいよ。」 アジトからそれ程遠くない場所に借りている自宅へ戻り、 夕食の準備をしていると、ふいに背後から声がした。 何だ急に、と振り返ると、どこか不満気なシャルが立っていた。 「具体的に何が。」 「まず、やたらアクティブ!」 は?と、思わず間抜けな声が出た。 しかしシャルは、そんなことお構いなしに続ける。 「と海なんて、初めて行ったよ。」 「気まぐれじゃん」 「外出すら滅多にしないのに。」 「だから、気まぐれ――っ」 「あと、」 何が言いたいのか分からない。 ため息を吐いた時、突然、胸倉をつかまれ、壁に押し付けられる。 一瞬のことに驚いて、シャルを見上げると、彼の瞳には確かに怒りがあった。 「何、怒ってんの・・・」 「二度と、殺せなんて言うなよ、」 「え・・・」 「が死ぬ時は、俺が死ぬ時だ。」 「シャル、」 「発狂?笑わせるな。」 「シャル」 「そんなこと、させるわけないだろ。」 「シャルナーク!」 口調変わってるとか、おかしいのはシャルもだとか、 そんな事よりも、彼の怒りの原因に、少し頬が緩むのが分かった。 「ごめん、もう、言わないから。」 「・・・言わせないよ」 その言葉に微笑みで返せば、ふわり、と肩に金色が落ちてきた。 胸倉を掴んでいた手は、いつの間にか背中に回され、抱きしめられるかたちになる。 その腕は、シャルは、微かに震えていた。 「約束して、・・・」 「約束?」 「うん、約束。」 囁かれた言葉に、ただ黙ってうなずいて、彼の背中に腕を回した。 (命が消えるその時も、俺のとなりにいて下さい) いつもと少し違う1日の終わり、君は優しく微笑んだ。 ------------------------------------------------------------ ついつい手を出してしまった狩人・・・ 友人に原作を借りてから創作意欲がふつふつと。 アニメ見てたけど、原作読むとやっぱり違う。 漫画で読むほうがストーリーのイメージが湧いてきます。 シャルナークは旅団でも好きなキャラ上位。 彼の魅力は、童顔だけど冷徹非情・・・あれ・・・この夢間違ってる? '10.02.05 桐夜 凪 ------------------------------------------------------------ |