好きなの。

たった一言そう言えば、

あいつを簡単に振り向かせることができると、思ってたのに。

ごめん。

たった一言そう言って、

一度も振り返らずにあいつは去った。























「失恋を癒すには、次の恋よ、。」


大学の食堂で、1人座って心ここにあらずの私を見つけた友人が、そう言った。

次の恋、と言われても、


「・・・あたし多分、誰かに告白されない限りは誰とも付き合わないよ。」

「また、そんな・・・」


友人は苦笑する。

もう、あんなに辛い想いはしたくない。

逃げてるって分かっているけど、誰かを好きになっても、云わない。


「じゃあ、俺と付き合おうよ。」


ふいに、後ろから現れたのは、知らない人。

見たことのない顔だった。


「・・・誰?」


当たり前の反応だろう。

見知らぬ人に付き合おう、と言われても困るだけ。

しかしその男は、私の隣にためらいもなく座る。


「俺?切原赤也。同じ学科でしょ、さん?」


別段、悪い感じはしなかった。








「ねーー。」

「何。」

「また今日もデートですか。」

「うん。今日は映画行くんだって。」

「ここんとこ毎日じゃん?ていうか彼氏できてから毎日じゃん!」

「そうだね。でも、」

「失恋を癒すには次の恋、でしょ?」

「あんたが言ったんでしょ。あたしはこの人にかけてみるの。」


切原くんと付き合い始めたのは、あの出会いから3日後。

周りからは早過ぎるだとか、軽いだとか言われたけど、

楽しくなければ、すぐに別れるつもりだった。

まだ2週間だけど、知らないところを知りながら付き合うってのも、

案外楽しいかもしれない。

でも、


「そう言うけどね、あんたの視線って、いつも決まってるんだよね。」


ドキリとした。

付き合いの長い友人は、核心をついてくる。


「まだ好きなんじゃないの?丸井さんのこと。」


一瞬、動けなかった。

3ヶ月前に失恋した、その名前は愛しいからこそ聞きたくない。


「な、にを。あっちはあっちで楽しんでるし、あたしは今の人がいる。」


だからもう、関係ない。

そう言えば友人は、探るような目つきで「ふーん」とだけ言った。









「あんなベストなタイミングで助けに来るかね?普通。」


隣を歩く彼は、ついさっき見た映画のワンシーンについて、文句を言う。

現実的に考えて、ありえないことが起こるのが、物語の世界だ。


「まぁ・・・あそこで助けないと、話が進まないんだよ。」

「死んじゃったら終わりだもんなー。うん、よくできてる。」


たまに子供のようになる彼に、笑いがこぼれる。

確実に、気持ちは彼に惹かれていた。

けれどやはり、そんなにうまくはいかないもので。


「ねぇ加奈子、メールが返ってこない。」

「え、何?」

「返ってこないの。」


彼からの連絡が、急に途絶えた。

こちらからメールをしても、電話をかけても、応答が一切無いのだ。


「それって・・・」

「まさか!だって、向こうから来たんだよ?」

「・・・・・・」


まさか、そんなはずは・・・ない。

そう思っても、不安は募るばかりで。

それから2週間経っても、何の連絡もなかった。








「何なの、一体。」

・・・」

「あたし、本当に好きになりかけてたのに。」


毎日待った。

携帯のバイブが鳴る度に、彼じゃないか、と。

胸を弾ませては、落胆した。

そのたびに、涙が溢れた。


「捨てられたんだよ、お前。」


声がした。懐かしい、愛しい、声。


「ブン、太・・・」


顔を上げれば、ブン太がいた。

優しく、包み込むような視線を私に向けていた。


「最初から、遊ばれてたんだよ。」


その視線とは裏腹に、投げかけられる言葉は残酷なものだった。


「あいつは、仲間内で賭けてたんだよ。お前とどこまでイケるか、ってな。」


なぜ、そんなことを言われているのか理解できない。

なぜ、ブン太が知ってるの。

なぜ、そのことを私に言うの。


「な・・・っ、何を、」

「お前は、騙されたんだよ。切原にな。」

「何なの、一体。」




ブン太に、肩を捕まれる。

やっと、忘れられると思ったのに。

本気で、好きになりかけたのに。


「何で、あんたが出てくんの。言いたいことはそれだけ?」

「俺は、」

「あたしが誰と付き合おうと、騙されようと、あんたには関係ないでしょ!」

「関係なくなんかねぇんだよ!」


ブン太が、叫ぶ。

肩を掴む手の力が強まる。


「関係なくなんか・・・ねぇんだ・・・。」


逃げたい。

この場から、ブン太から、今すぐ逃げたかった。

ブン太が今から言う言葉を、聞きたくなんてない。


「俺は、お前を、」

「やめて。」

「好きなんだよ、。」


聞きたくなんて、なかった。

死ぬほど、聞きたかった。


「今更・・・そんな、やめて・・・」


ブン太は、ずるい。

私を落ちるとこまで落として、救い上げる。


「あんたは、あたしを、振ったの。3ヶ月前に!」

「・・・」

「それを、今更何?」

「っ俺」

「勝手すぎる・・・・・・あんたは、いつも・・あたしを振り回す。」


どうして・・・


「好き、だったの。」


ブン太が付けた傷を、切原くんは癒してくれた。


「こんな裏切りって、ないでしょ。」

、あいつは」

「やめて。ブン太の顔なんて、見たくない。」

「――っ」


信じたくない事実は、ブン太が見せたその表情とともに、封印して。

私は―――・・・・・・























好きなんだ。

たった一言伝えたくて口に出した。

あいつはすぐに振り向くと思っていた。

けれどもう、あいつの心に俺はいなくて。

遅いよ。

たった一言で全てを悟った。

何もかもが手遅れで、俺の心は一生、届かない。




















「もう、疲れたよ。」


私は、落ちるとこまで落ちるのだ。








Fall,Fall,Lose.










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 わけ分かんなくなった。
 とりあえず、
 「俺は、お前が好きなんだよ!」
 「今更何?」
 が書きたかっただけです。
 急にひらめいたお話(というよりフレーズ)だったので・・・。
 うまく纏まらなかったかもしんない。あうち。
 ちなみに、主人公と赤也が同級生で、ブン太が1つ上設定。
 主人公とブン太の関係は・・・また書きたいなー、と。



 '09.03.18  桐夜 凪
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