(そんな馬鹿な、ありえない、ありえない、ありえない)



何度も自分自身に言い聞かせる。まるで、洗脳しているみたいだ。自分で、自分を。
ははっ、本日何度目かの溜息にも似た乾いた笑いを零す。(馬鹿じゃねぇの、おれ)
数十分前、目の前で俺を見上げていた潤んだその瞳は、今はもう、俺を映さない。



「あんたの為に、私はあいつを捨てたのに」



数分前、潤んだままの瞳で俺を睨みつけて放たれた言葉は、今も俺を縛り付ける。
(おれは捨てろなんて言ってない)(おまえが勝手に、本気になっただけだろ、
罵るような言葉なら、いくらでも浮かんだ。けれど声にはならなかった。(どうして、)



「あんたは、あの女を捨ててくれないの?ねえ、赤也」



当たり前だ、と言ってやりたかった。けれど、やはり声にはならなかった。(なんで)
(あの女、はおれの彼女で、)(おまえは、)(あれ、おい・・・マジかよ、あの女って、)
理由はいとも簡単に俺の心に現れた。けれど、認めたくない事実だ。なんてこった。



(あの女って、どんな顔、してたっけ)(うそだろ、名前すら思い出せない、なんて、)



お前はアレだよ、馬鹿なんだよ。いつかの丸井先輩の言葉が浮かぶ。そうだった。
絶対お前、いつか痛い目みるような奴だろぃ。笑えねえよ、現在進行形だっての。
全部あんたの言う通りだよ。おれ、馬鹿だ。(なんて、今更後悔したって遅いんだ)



「もう、いいよ。ばいばい」



いつの間にか乾いた瞳を一瞬で逸らし、踵を返して去っていくその姿を目で追った。
追いかけることはしなかった。(できなかった、ってわけではないんだ、多分、そうだ)
無意識に上げられた右腕は行き場を失い、ゆらゆら。最終的に顔面に落ち着いた。



(何やってんだ、おれ)



片手で顔を覆ったまま、ガタン、と、誰のものかも分からない机に全体重を預ける。
ははっ、本日何度目かの溜息にも似た乾いた笑いが込み上げる。(なんだ、おれ)
頬を、温かいものが伝う。(なんだ、おれ、泣いてんの)誰もいない教室で、ひとり。



(追いかけろよ、おれ。追いかけて、引き止めて、腕掴んで、抱きしめて、)








硬直モ ー メ ン ト
(いつの間にか頭ん中お前ばっかりだよ、








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浮気なのは最初だけ。
気付かないうちに溺れていくんでしょう

こんな感じのレイアウトで1度書いてみたかった。満足。

2010/07/22 桐夜 凪
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