そろそろ、桜が咲くね。 まだ蕾のその枝を見上げ、優しく吹く風に踊る長い髪を耳にかけながら 隣に座る先輩は微笑んだ。 「終わって、しまうんスね。」 ポツリと、少し寂しくなって呟けば 「どうだろう。」 そう言って、俺に視線を向ける先輩。 ベンチに腰掛けて、足をブラブラと揺らしていた俺は、それを止める。 「今まで作り上げてきた事は消えないし、皆と二度と会えなくなるわけじゃない。」 「・・・そうっスけど、でも、」 俺だけ残されるなんて、そんなこと・・・ 言葉にならなかった思いを、先輩はお見通しだった。 ポンっと、頭に暖かくて優しいものが乗った。 「私たちは、待ってるよ・・・――また、赤也と一緒に全国行くんだから。」 ワシャワシャ 髪の毛が掻き乱される。 けれど、不快じゃなかった。 「でも、」 ムニ 頬をつままれる。 目の前にある先輩の顔は、悪戯っ子のような、けれどどこか寂しげな、そんな笑顔だった。 「今年の全国で優勝してくれないと、皆がっかりしちゃうかもね。」 「――っ当たり前っスよ!!」 未だ俺の頬を掴んだままの先輩の手を掴み返し、そのままギュッと両手で覆って 頭の端に幸村ブチョー(あ、もう、違うのか)の少し恐ろしい笑顔を浮かべながら叫んだ。 「俺は、先輩たちを超えてやるんスから!」 へへっ 思わずこぼれた笑みに、先輩も笑い返してくれた。 「生意気ね。でも、その意気よ、赤也。」 「先輩、試合の時は応援来てくれますよね?」 「そうね、行ける限り行く。」 「絶対、来てください。・・・それでなくても、なかなか会えなくなるんスから。」 だんだん声が尻すぼみになっていく。 ああ、今日の俺はなんだか小さな子供みたいだ。 そう思ったら、自然と顔が下を向いた。 「・・・寂しいよね、やっぱり。」 「え・・・?」 「あたしだって、先に卒業しちゃうとか寂しいよ。」 握ったままだった手が解かれ、逆に俺の手を先輩の両手が覆う。 反射的に、顔をあげた。 「でもさ、赤也。私はまた1年後に、赤也が私たちと同じ地に立つのを楽しみに待ってる。」 「、先輩・・・」 「だから、今よりもっと、いろんな意味で大きくなってよ。」 ね? と、そう言って笑う先輩の顔は、落ちかけた陽に照らされて、少しだけ赤みが差していた。 「・・・もちろんっスよ!」 俺も、笑った。 先輩と同じように、夕日に顔を赤く照らされながら。 「ああ、そうだ。」 ふいに、先輩が思い出したように声をあげた。 「何スか?」 「同じ校舎にいないからって、浮気しないでね。」 「はあ!?するわけないでしょ。」 「そう?あんた、モテるからね・・・」 「そういう先輩こそ、他の男に誘惑されないでくださいよ!」 「ああー・・・考えとく。」 「え!?やっ、ホント、丸井先輩とか危な――」 「冗談よ。」 「――っ」 なんて、心臓に悪い。 そう少し睨めば、楽しそうに笑う先輩。 握られていた両手は、いつの間にか片手だけになり、ベンチに下ろされていた。 「先輩、」 「ん?」 「俺、先輩となら一生一緒にいても良い。」 「・・・何、軽くプロポーズですか。」 「え?あ!あー・・・・・・でも、本音っスよ。」 「そうね、前向きに検討するわ。」 それは、どういう意味なのか。 先輩も俺と同じ気持ちでいてくれているのだろうか。 俺にはよく分からなかったけれど、先輩の表情を見ると、 それはつまり、そういうことなのだろう。 先輩が照れたように微笑んで、俺もつられて照れくさくなって笑って。 どちらからともなく、静かに唇が重なった。 桜 の 咲 く 頃 に ------------------------------------------------------------------------ 春です。新たな門出です。 今まで、卒業とかそういう類のおはなしを書いたことが無かった気がしたので。 年上ヒロインで、赤也くんでした。 3周年フリー小説でした。配布終了 2010/03/12 桐夜 凪 ------------------------------------------------------------------------ |