ゆっくりと歩を緩め、立ち止まる。

目の前には、これから毎日見上げるであろう校舎が立ちそびえている。


「ここ、ね・・・」


一言、呟くように口にして

また歩を進める。
向かうのは、愛する幼馴染の元・・・―――






















「・・・これは・・・チャリが必要だ・・・・・・」


予想より遠かったグラウンドへ続く道を歩きながら、は呟く。

校舎から歩いてきたのはいいが、遠かった。


「さて、どうしたもんか。」


少し休憩、と近くにあった岩に腰を下ろし、辺りを見渡す。


「あ、」


校舎の方を振り返ったところで、チャリで走ってくる女子を見つけた。


「ちょ、ちょっといい?」

「・・はい?」

「野球部のグラウンドまで、あとどれくらいある?」

「えーっと・・・あ、私マネジなんです!一緒に行きますか?」

「マジで!?えっと、チャリに乗せてもらっていいかな?俺がこぐから」

「え?!わ、私重い・・・!」


大丈夫だよ!

そう叫んだかと思えば、野球部のマネジという女子を後ろに乗せ、すでに出発している

最初こそ、わーとかきゃーとか、叫び声が聞こえたが、それも次第になくなっていく。

完全に落ち着いたところで、後ろのマネジに声をかける。


「ごめん、大丈夫?」

「う、うん。大丈夫。」

「よかった。」

「・・・貴方、編入生?」

「うん、中途半端な時期でしょ?」

「う・・うん。」


そこまで話したところで、グラウンドが見えてくる。

自転車から降りる準備をしながら、は言った。


「ありがと!監督さんに挨拶してくるから、また後で。」

「あ、うん!」


そう言って、一直線にベンチの方へ走っていく。


「・・・(騒がしい人だなぁー)」


後姿をボーっと見送りつつ、篠岡は思った。










「・・・百枝監督、ですよね?」


ベンチの傍で、練習する部員を楽しそうに眺める女性に声を掛ける。

の声に気付いたその女性は、ん?と少しだけ首を傾けた。


「キミは?もしかして、入部希望者っ?!」

「え、えぇ・・まぁ。」


突然目を輝かせた百枝に、若干戸惑いつつ、は答える。


「ポジションはっ?!」

「あ、いや・・・・・・」


言葉を濁すに疑問を抱き、もう一度、百枝は聞く。


「中学ではやってなかった?何処がいいかな?」

「俺、選手として入部したいんじゃなくて、マネジとして入部したいんです。」

「え?」

「ちょっと、いいですか。」


返事を待たずに、百枝の掌は、の胸に当てられていた。


「・・・はっ?!」

「女ですから、俺。」





「えぇっ?!」


2人だけだと思っていたその場に、百枝でものものでもない声が響く。

聞かれたか?部員に?

そう思い、ため息を吐きながら振り向く。


「・・あ、」

「貴方、女の・・・――っ」

「はい、シーッ!」


これでもかと言うほど大きく叫ぼうとする篠岡の口を手で塞ぎ、

片方の手の人差し指を自らの口元へと当てる。

その顔は、行動の素早さの割りに落ち着いていた。


「このことを、部員に内緒で、入部させてください。」


もし、選手の数が足りなくなれば、使ってくださってもかまいません。

篠岡から離れ、百枝に向き直ったは言った。


「中学でもやってたか、と聞かれればやってません。ただ、アメリカでは草野球チームに混ざってやってました。」

「アメリカ・・・?」

「えぇ、ちょっと、諸事情で1年半ほど。」

「そう。で、その草野球でのポジションは?」

「捕手です。」


そこまで言って、はグラウンドに目を向ける。

その視線の先には、チームメイトに声を掛けられ、少しビビり気味の幼馴染が。


「俺が、女だと知ってるのは、監督と志賀先生、予想外だけどマネジ、後は・・・三橋です。」

「三橋くん?」

「俺の出身中学、三星、ですから。」

「その時の三橋くんを、知ってるのね?」


その言葉に、は微笑で答えた。

それ以上は聞くな、と。


「・・まぁいいわ。貴方、名前は?」

・・。本名は、です。」













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