「ゴールデンウィークは合宿するよ!」


入部して1週間程。

やっと慣れてきた頃の帰り際に、思い出したように監督が言った。


「そのあとは、練習試合よ。」


人差し指を立てながら、ニコリと笑って監督はそう付け足す。


「・・・何処と、ですか。」

「三星」


その名前が出ることを、頭のどこかで予想していたのかもしれない。

あまり衝撃を受けなかった。


「三星・・・ですか。」

「ええ、三星よ。貴方たちの出身中学の、群馬の三星学園よ。」

「それは、廉の為、ですか・・・それとも――」


チームの、と続けようとした私の言葉を遮って、監督は微笑んだ。


「そうね・・・両方、かしら。」






















ジリリリリリリリ


近所に家が密集していれば、

確実に騒音と化すであろう目覚まし時計のアラーム音で目を覚ます。

朝は苦手だ。

どうしても不快だ。

頭をグシャグシャと掻きむしりながら、昨日の晩に畳んでおいたTシャツに袖を通す。


「・・・・・・やべ、遅刻しそう。」


悠長に着替えている場合じゃなかった。

時計は既に、集合時間の20分前を指していた。


「行ってきます!!」


焼いておいてくれた食パンをくわえて、家を出た。






「やっべえっ」


田島の声で目を覚ます。

間に合ったのはいいが、バスの中でもまた眠っていたらしい。


「昨日オナニーすんの忘れた!!」

「―っ」


何を言い出すんだ田島は。

窓枠にのせた肘が、外れた。

篠岡が隣で反応したが、幸い聞こえていなかったらしい。

他の部員が田島を押さえつけて、必死に何でもないと叫んでいた。


「・・・ねむ」


どんなに周りが騒がしかろうと、眠気には勝てない。

は静かに目を閉じた。


「(・・・くんは、ずーっと寝てるなぁ・・・。)」

「(きっと疲れてるんだぁ)」







「雰囲気あるなぁ」

「結構古いねぇ・・・・・・うん。」

・・・お前、いきなり後ろから出てくんのヤメロ。」


怖いよ、なんか。

花井が呆れ顔で言ってくる。

失礼な奴だ。


「じゃあ下から現れてみようか?」


言いながら、少ししゃがみ、花井の視界から消える。

そのまま、素早く立ち上がってみた。


「うおっ」

「案外危ないな、コレ。」

「・・・って、意外とそういうこともすんだね。」


顎と頭が激突したら痛いんだよね・・・

とか考えていたら、水谷が引きつった笑いでこれまた失礼なことを言ってきた。


「・・・しないように見えんの?」

「うん。見た目落ち着いてんじゃん。」

「ふーん・・・そうかなぁ?」


うんうん、といつの間にか会話に入っていた花井が相槌を打っていた。


「コラ!さっさと掃除始めなさい!」


監督に言われて周りを見ると、既にみんなそれぞれに散らばって掃除を始めていた。


「ヤベっ」


志賀先生が目を光らせているのを横目で見ながら、

とりあえず動けずにいる三橋のもとへ向かった。


「廉!」

「あっ!・・・くん」

「まだ慣れない?」

「え、あっ・・・う・・・」

「ハハッ!本名さえ皆の前で出さなかったら大丈夫だよ。・・・それより、畳の雑巾がけしようか。」


そろそろ志賀先生の視線が痛い。


「う、うん!」


雑巾をしぼりながら横目で見た廉は、いつも以上に挙動不審だった。












BACK TOP NEXT