「なあ!今日、お前ん家行くから!」


部活もそろそろ終わる頃、満面の笑みでブン太が言った。


「そ・・・それは唐突すぎじゃない?」


口ではそう言いつつも、どうせ来るんだろうな・・・と諦める自分がいる。

ああ、慣れてしまっている・・・。

部屋は片付いてるから良いんだけど。


「いいだろぃ!皆で行くから!」

「・・・わかったよ」

「よっしゃ!」


大きくガッツポーズをして、そのまま赤也の頭をワシャワシャと撫でる。

それに赤也が必死に抵抗するのを見ながら、ひたすら夕飯の買い出しについて考えていた。


「(皆って、皆?レギュラー?多くない?家にあるだけじゃ足りないよね・・・)」


もう面倒だ。

カレーにしよう。







#13 甘くて辛い日常がそこに。







ーっ」

「帰りましょー!」

「そんなに叫ばなくても同じ部屋にいるんだから聞こえるよ」


着替え終わったのか、ブン太と赤也が急かすように俺を呼んだ。

部室内で大声出すと響くからうるさいんだけど。


「夕飯の買い物に行きたいんだけど・・・・・・うん、来るよね。」


買い物になんて連れていくと、子供みたいにはしゃぎそうなのが若干名いるけど、

買い物と聞いた途端に目が輝いた奴が若干名。

やっぱりお前らか、赤也、ブン太。







先輩!これは必須ですよね!」


バタバタと走りながら赤也が持ってきたのは、何を思ったか塩昆布だった。


「これ、何に使うんじゃ?」


隣で買い物カゴを持ってくれている仁王が不思議そうに聞いてくる。

いや、俺も聞きたい。

すると赤也が知らないんですかとばかりに答えてくれた。


「これでダシとるんですよね?」


知らねえよ。


「え?」


思ったことが少し声に出ていたらしく、赤也に聞き返される。


「いや・・・カレーは別にダシとらないし。」


ていうかダシって何だ。

カレーはルーじゃないのか。


「ええっ!?」


何故そこで落ち込むのかは皆目見当がつかないが、赤也はその場でしばらく項垂れていた。


「・・・で?ブン太は何を次々とカゴに詰め込んでるのかな?」

「ん?お菓子に決まってんだろぃ!」

「却下。」

「うおっ!?」


次から次へと投げ込まれる大量の菓子類を、これまた次から次へと陳列棚に戻していく。

そんな戦いがしばらく続いたが、


「丸井もも・・・うるさいよ、行動が。」


そんな幸村の一言で、全てがストップした。


「とりあえず、カレーの材料をそろえることが先決だろう。」

「そうですね。菓子類はその後でも良いでしょう、丸井君。」


柳が落ち着いて言うと、それに続いて柳生も言葉を繋いだ。

カレーの材料を買いに来ているのは分かっているはずだが、

どうしてこうも揃わないのか、甚だ不思議でたまらない。

しかし、それもそのはず、こいつ等の所為であろう。


先輩!隠し味に梅干いれません!?」

っ!チョコレートいれようぜぃ!」


こいつ等の目的は何だ。

全員食中毒で部活停止か?


「お前さんら・・・馬鹿じゃのう。が困っとるぜよ。」

「仁王・・・・・・」


救世主が現れたと思ったら、やはり仁王も危険人物だった。

彼の右手には買い物カゴ、左手には大量のチュッパチャップス。


「・・・意味わかんないから。チュッパ持ってくる意味が分からない・・・!」

「はははっ!も大変だね!」

「幸村・・・爽やかにイカ墨をカゴに入れないで・・・」

「真田はどこに行ったんだ・・・?」

「あれ、ジャッカルいたんだ。」


その後、サービスカウンターで店員であろうおばちゃんに捕まる真田を保護し、

カゴいっぱいに詰め込まれた菓子類、イカ墨、梅干その他もろもろ・・・

をほぼ全て陳列棚に戻し(菓子類の一部は、ブン太の猛抗議により購入)、

騒がしい面々を外に出してから会計を済ませて帰宅。


買い物だけで2時間かかり、家についた頃には8時を裕に過ぎていた。


「今から作るけど・・・皆、家の人は大丈夫なの?」


聞けば、それぞれの返答が返ってくる。

放任主義だから、という答えが一番多かった。

何故だ。中3男子というのは親から心配されなくなる年頃なのだろうか。

そう考えて、そういえば、向こうの世界での私はどうなったのだろう、と浮かぶ。

両親はいないし、弟もいないのだから、家族というものには支障はないのだろうが。

友達は、は、どうしているのだろうか。


先輩?」


ふいに、赤也の顔が視界に広がる。

かなりボーっとしていたらしい。はっとして見れば、心配そうにこちらを伺っていた。


「ごめん、何でもない。じゃあ作るから、その辺で適当に寛いでて。」

「うぃーっす」


考えていても仕方がない。

とりあえず今は、目の前にある現実を、カレーを9人分作らなければならない現実を

どうにかして乗り越えることに専念することにした。