#1 あ、マジでトリップしてるんだ。
「どうしよ・・・。」
目の前に広がるダンボールの山、山、山。
頭は真っ白。
それでも必死で考える。
「確かに昨日は自分の部屋で寝た・・・ハズ。」
・・・だったら、何だ此処は。
見たこともない部屋。
でも、誰かが住んでいる気配もない。
フと、一つのダンボールに目がいった。
「何でコレだけ色が違うんだ・・・?」
茶色の、いかにも業務用なダンボールが並ぶ中、一つだけ白い箱が。
「?なんかついてる。」
手に取り、広げてみると。
“ 様
あなたの願いは叶えられました。
ここ、『テニスの王子様』の世界にて、
現実世界の【いつも】とは違う日常をお楽しみください。
何かございましたら、コチラへ。
0074−2007−×××× カトリーヌ”
などという、見るからに怪しい手紙だった。
・・・ていうか。
「カトリーヌ誰。」
もう一度読み返してみると、気になる箇所が一つ。(カトリーヌはまぁ、おいといて。)
「“あなたの願いが叶えられました”・・・?」
何かを頼んだ覚えなどない。
しかし、宛名は確かに自分の名前だ。
「“【いつも】とは違う”・・・。」
ハッとした。
知らず知らず、願ってしまっていたのか。
【いつも】とは違う日常が欲しい、と。
「ハハッ・・・それでか。・・・・トリップ、ね。テニスの王子様・・・。」
数少ない親友のが言っていた。
『テニプリがね、すっごいおもしろいの!!もハマると思うんだよね!』
ってことで読め!
と、無理やり渡されたのがテニスの王子様だった。
「キャラとか覚えてない・・・。」
こんなことなら真剣に読んでおけばよかった・・・と、今更後悔。
「・・・で、この箱の中は・・・?」
やけに頑丈に貼られたガムテープを、綺麗に剥がせるわけもなく、ビリビリと破く。
中には、どこかの制服や教科書、丁寧に転入手続きの書類まで入っていた。
そして、
「よぉ!」
と、元気に片手を振り上げるネズミが一匹。
「・・・トリップしたら、ネズミ語もわかるんだ。」
「俺はネズミじゃなーい!!次元の神だぜ。神!ちなみに名前はネズ。」
まんまネズミじゃん。とか思ってしまったのは黙っておこう・・・。
・・・ていうか、次元の神って何。
意味が分からない。
「は、現実世界の“いつもと変わらない日常”に飽きてきていた。」
ネズミ改めネズが、話し始める。
「それを、俺がこの世界に連れてきたんだ。」
「あぁ、あの手紙はアンタなんだ。」
「そうだ。」
「・・・カトリーヌって誰。」
「愛人。」
「・・・」
へぇ、愛人・・・。
遊ばれてるんだね、ネズ。ドンマイ。
「あ、遊ばれてなんかいねぇぞ!健全なお付き合いだっっ!」
・・・心の中も読めるんだ。
なんか向こうでいろいろ言ってるのを無視し、
ダンボールの中をあさってみて、気がついたことが。
「ねぇ・・・、この制服って男物・・・だよね?」
「あぁ、それか。間違えてたみたいだ。悪いがそれを使ってくれ。」
「は・・・?マジで。」
「おう。じゃ、俺はこれで。あ、そうそう。明日は編入テストだからな。頑張れよ。」
「え、いきなり?つーか、私もう中学卒業するんだけど。」
トリップしたから卒業式出れないけど。今日だったのに。
・・・まさか、トリップしたからもう一度中3やり直し・・・?
「ま、そういうことだ!じゃーな!」
ネズは、そういって爽やかに去っていった。
とりあえず、明日のために勉強しようと思う。
・・・つーか、結局どこの学校に行けばいいんだろう・・・。
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