来るんじゃなかった・・・。







#7 後輩に振り回されて、生意気なチビとコンニチハ。







「お客さん、終点なんだけど・・・」


肩を揺すられる。少しイラっときながらも、なんとか起きる。

隣を見ると、後輩のバカワカメが熟睡中。

いい加減運転手の苛立ちもすごくなりそうで、


「すいません・・」


一言謝ってすぐにバスを降りた。





「――で、どこだ此処。」

「・・・さぁ?」


あぁ・・・真田の平手打ちが飛んでくる・・・・・・

そう思いながら、赤也につられて眠ってしまった自分を呪う。


「――・・・って切れてんじゃねぇよ」


呪文めいたものを唱えている間に、赤也が監督に電話してくれていたらしい。

しかも、俺たちが今まさに前に立っている塀に、『青春学園中等部』

と表札があったことを、今更ながら発見していた。


「・・・おせーよ気付くの。」

「・・・青学かぁ・・・」


そう呟きながら、赤也は中に入っていく。


「え、ちょっと!練習試合!」


そんな俺の叫びも、耳に入っていないのか、それとも意図的にシカトしてるのか。

生意気にも先輩をほったらかしで進んでいく。


「・・・真田のビンタは痛ぇんだぞっっ!!」


仕方ない。

こうなったらとことんサボってやる。(赤也へのビンタは俺の3倍にしてもらおう)






「青学ーファイッ」


少し歩くと、そんな掛け声とともに、テニスコートが見えてきた。

青いジャージを着た(レギュラーかな・・・)部員が、赤やら青やら叫びながら

その色のコーンにボールを命中させていく。


「へぇ、おもしろい練習してんじゃん。」

「うん・・・あぁ、ボールに色が塗ってあるんだ。」


よく考えたら、ただ単に口に出した色のコーンにボールを当てるだけなら、

コントロールさえつければ俺でもできる。


すげぇ・・・流石レギュラー・・・と敵なのに感心していると、

またバカワカメがやってくれた。


「・・・キミ達は?うちの生徒じゃないようだけど。」


まぁ、そりゃあ。制服着てるしね。立海の。


「うお!もう見つかったッスよ先輩っ!」

「えー・・・」


なんで俺の名前言ったかなぁバカワカメ。

言わなかったら逃げれたのに!


「バレちゃしょうがねぇ!」


そう言って、赤也は自分をエースだとかなんとか自慢げに紹介する。

・・・俺も自己紹介しろ的な雰囲気に・・・・っ


「立海大付属中3年、 。・・・とりあえず、よろしく・・・?」

「・・・神奈川代表が何のようかな?」


警戒されてんの?

や、まぁ、怪しいけど。


「ちょっとばかしスパイに・・・」


クソワカメ!

余計なこと言いやがって!


「スパイだとっ?!」


あぁ、ホラ、誰か反応したよ。

スパイなんてカッコいいもんじゃありませんー。

バスで寝過ごしたただの通りすがりなんですー。


「手塚さん見っけ!」


・・・なんか見つけやがった。


「ちょっとお手合わせしたいなぁ・・・」


試合する気?


「赤也!」

「大丈夫っスよ先輩!ちょっとッスから!」

「え、そういう問題じゃ・・・・――」

「部外者は出て行け。」


・・・自分の声を遮られたうえにあんな冷たい言い方されたら

いくら俺でもムカつきます。

というわけで、赤也の失礼極まりない発言も、今回ばかりは大目にみることにした。


しかし、やはり向こう側からすると喧嘩を売られてるも同然で、

気の短い奴がとうとうキレたらしい。


「とっとと出て行けよ!!」


その叫び声と一緒に飛んできたのは、荒いボールだった。


「バカ!荒井!」


わお、ダジャレっすか!

なんて悠長なことを考える暇もなく、打球はこっちに向かってくる。


「赤也、なんとかしろよ。」


ジロリ、睨みつけながら言うと、

赤也は持っていたラケットでその打球を簡単にイナしてみせた。

流石にこのことには驚きを隠せないらしく、

打った本人なんて目を見開いて叫んでいる。


「横から口挟まないでくれる?」


挟まれたのはボールだけどね。


「手塚さんさぁ、別に深い意味じゃなくて1球、2球交えようって言ってるだけジャン」


ポンポンと、さっきのボールをラケットで弾きながら、挑発する赤也。


「そんなシカト気分悪いなぁ。」


さっき先輩をシカトしたのは誰ですか。


「アンタ潰すよ」


そう言った赤也の声は低い。

一瞬、手塚と赤也の間に沈黙がおりる。


「なーんて」


それを破ったのは、赤也だった。

ニコリと笑ってそう言うと、


「俺そんなことしませんよね?」


と、俺を振り返る。あえて肯定はしない。(否定もしないけど)


「・・・はぁ。」


ため息が出る。


「帰るよ、赤也。」


訳すと、『さぁ、真田に殴られに行こうか!』

赤也に伝わったかどうかは謎だが。


「ッス。おーい荒井くん!ボール返すぜ!」


言いながら後ろ向きに打ったボールが、荒井のもとに返らず、

その隣にいた部員の顔面に直撃。

その後も、すり抜けたラケットが片付けをしていた部員に当たったり、

キレて暴れだす部員がいたりで、大変そうだったので急いで逃げた。






「ふー危ねぇ危ねぇ・・・。俺のせいにされるとこだった!」

「いや、赤也のせいなんだけどね。」

「へへっ!まぁそうなんスけど!」


いたずらが成功した子供のように笑う赤也。


「バカワカメ。赤也のせいでまた真田にビンタされる!」

「なっ・・・ワカメはひどいッスよ先輩!」

「・・・じゃあヒジ・・――」


前を向いて歩かないのがマズかった。

走ってきた人に気付かずに、そのまま思いっきりぶつかってしまった。


「痛っ・・・だ、大丈夫?!ごめん!」

「大丈夫ッスか、先輩?・・・テニス部員?遅刻組か?」

「・・・さぁね。」

隣にいるバカヒジキより生意気そうなそいつは、それだけ言って入っていく。


「ん?青学のボール持ってきちまった。」

「え、」

「ついでに返してくんない?」

言いながら、そのボールを投げる赤也。

しかし、そのチビは振り向こうともしない。


「おーい」


呼びかけると、


「どーも」


後ろも見ずにそのボールをイナした。


「へぇ・・・」


思わず呟く。

流石、主人公。

スーパールーキーなわけだ。


ふと、赤也に視線を送ると、楽しそうな表情だった。