#9 見上げた空は、今も昔も変わらない澄み渡る青で







いつもと変わらない朝。

コツン

何かが窓に当たる音がして、カーテンを開いた。


「よぉ、。」


窓枠に立っていたのは、何週間ぶりかに見る、

俺をこっちの世界に連れてきた張本人。


「ネズ!」


どうしたの?

俺の質問には答えず、深刻な表情になるネズ。

そこにある何かを感じながら、耳を傾ける。


「・・・オレ、頑張ったんだけどよ・・・・・・運命ってのは、変えられねぇ。」

「・・・え?」


その時はまだ、ネズの言葉の意味を理解しきれなかった。











電話が鳴り響いたのは、夕方過ぎだった。


!!ゆ、幸村が―――!」


あんなに切羽詰った真田は、見たことがなかった。










病院へ駆け込むと、既に全員が揃っていた。


・・・・・・」

「・・・幸村・・は・・・?」


真田を見ると、少し青ざめていた。

自分の足の感覚がなくなっていくのを感じる。

恐怖で、声すらも出なくなる。

ふいに、今朝のネズの言葉が脳裏によぎった。


『運命ってのは、変えられねぇ。』


このこと・・・だったのか・・・・・・

そう思った瞬間、全身の力が抜けた。


っ?!」

「ちょっ!先輩?大丈夫っスか?!」


ブン太や赤也に覗き込まれて、立とうとするが力が入らない。

何か言おうにも、やっぱり声が出てくれない。

あの日の感覚に、似ていた。






『姉ちゃん!』


振り駆れば、横断歩道の向こうに、息を切らした弟がいた。


『弁当!忘れてる!』


そう言いながら、頭の上で弁当を振ってみせる。

鞄の中を確認すれば、弁当が入るであろうスペースが空いていた。


『ごめん!急いでるんだ!』


俺の言葉を聞くと、


『じゃあ、すぐ行くよ!!』


そう言って、赤信号を無理に渡ろうとした。


『え、ちょっと!赤だよ!?』


その忠告を無視して、


『大丈夫だって!』


自信満々の表情を見せた弟は、直後、大型トラックと衝突した。

一瞬、何が起こったのか、理解できなかった。


『・・・?―――っ・・・!!』


即死だった。


俺が忘れ物をしたのは、あの日が初めてだった。


病院の霊安室で、生まれて初めて、泣き崩れた。









「――っ」


涙は止まることなく、溢れていく。