病院は、嫌いだ。

良い思い出なんて、ひとつもない。







#10 君の想いを、俺達は。







、お前どうしたんだよぃ?」

「なんか変じゃのう?」


あの後、少し落ち着こうと、ブン太と仁王に連れられて、屋上へ上がった。

その2人に今、上から覗きこまれる形で問いかけられる。


「・・・・・・俺さ、弟が、いたんだ。」


この2人になら、話してもいい。

そう思った。


「いた?」

「過去形・・・じゃのう?」


ブン太は不思議そうに、仁王は続きを促すかのように、首を傾げる。


「うん、いたんだ。」


数年前まで。


そう付け加えると、ブン太のガムが割れた。


「弟は・・・・・・は、俺が殺したんだよ。」


ブン太のガムが、地面に落ちる。

重い沈黙。


「は?何、、殺人者?」


ブン太の問いかけにも、渇いた笑いしか、返せない。


「正確には、“俺のせいで”死んだ、かな。」

「・・・・・・」

「前にいた中学は、普通の公立校で、昼はみんな弁当だった。」

「・・・それが?」


新しいガムを噛むこともなく、真剣に俺の話を聞いてくれる。


「その日、いつも絶対に忘れないのに・・・。その日だけ、弁当、家に忘れちゃって。」


また、涙が溢れてきた。


「先に家を出た俺に、がその弁当を持って来てくれて・・・。

 横断歩道の向こうまで来たところで呼ばれたんだ。」

「急いでるんだ、って言ったら、赤信号無視して横切ろうとして・・・・・・」






っ!』


道行く人が足を止めた。

すぐに、たくさんの人が周りに集まった。


―――やめて、見せもんじゃない。




『・・・・・・死んだ?が?』


たくさんの人を、傷付けた。




のせいじゃないわ。信号を無視したが悪いのよ。』


母親は、そう言った。

その母親も、1年後、アルコール中毒で死んだ。


・・・いっそ、責めてほしかった。

あんたのせいよ

そう言って、罵ってほしかった。


・・・誰も、そうしてくれなかった。

あなたが悪いんじゃない。

お前が悔やむことはない。



だったら、私と代わってよ・・・・・・







「俺、弱くて・・・臆病だから・・・幸、村が、倒れたって・・・聞いたとき、」


怖かったんだ。


(また、いなくなるの・・・?)


ふいに、頭に温もりを感じて顔を上げると、今までずっと黙っていた仁王が、

その大きな手で優しく頭を叩いてくれていた。


「ん。」


ブン太は、ガムを差し出してくれた。


「―――っ」


また、涙が溢れて、俯く。


「お前さんが思ってるほど、悪いとは思わんよ。」

「けど、不注意だったのも・・・少しはあんじゃねぇの。少しは、な。」


もう一度2人を見上げると、優しく微笑む仁王と、

少し照れたようにそっぽを向いたブン太がいた。