#11 いざ進めやキッチン
幸村が入院してから、1週間が過ぎた。
いつまでも落ち込んでいる場合じゃない、
と真田や柳を筆頭に部活を再開したのは3日前。
しかし、流石にレギュラーだけでなく、
平部員にも部長の入院は堪えたらしく、皆、練習にも覇気がない。
特に、赤也の落ち込み様は尋常じゃなかった。
「・・・大丈夫かアイツ。
さっきから幸村ブチョーって言いながらラケットで地面に幸村って書きまくってんぞ。」
「重症、ですね。」
「赤也・・・」
既に、赤也がいる辺りは“幸村”の文字で埋めつくされていた。
ぶっちゃけ気持ち悪かった。
・・・悪寒がする。
(ごめんなさい。謝るから黒魔術発動させないで。)
「赤也、帰りに幸村んとこ行こうか。」
見ていられなくてそう言うと、少しだけ赤也の表情が落ち着いた気がした。
「幸村ブチョー!」
病院だということを微塵も気にせずに、廊下は走るわ叫びながら扉は開けるわ。
真田がいたらビンタどころじゃ済まないよ。
「やあ、赤也。来てくれたのは嬉しいけど、病院内では静かにね?」
黒さはあるものの、いつもより迫力がない。(気がする)
「どう?調子は。」
「うん、大丈夫。今日なんて悪戯しちゃった!」
「そう・・・」
幸村は飄々と言ってのけるけれど・・・・・・
『悪戯』?
さっきの悪寒は、気のせいではなかった。
「うん、ちょっとの机がおかしなことになってるかもね?」
「えっ!?」
「フフッ」
あ、謝ったのに・・・・・・
1人ショックを受けて黄昏れていると、リンゴが飛んできた。
地味に痛い。
「幸村ブチョー・・・俺、ブチョーがいなくて寂しいッス!早く帰って来てください!」
赤也が、今にも泣き出しそうに言った。
「うん・・・そうだね。」
少し間をおいて、幸村は微笑んだ。
「だから赤也。俺が復帰するまで、ちゃんと“常勝立海大”のエースでいるんだよ?」
暗に、勝ち続けろ、と諭す。
部長が不在だからといって、負けていいわけじゃない。
“常勝立海大”は、その名の通り、負けが許されない。
赤也は、それを背負っていく存在なんだ。
その事を自覚し、理解したとき、アイツは成長する。
そう思うんだ。
病室を出るとき、俺だけを呼び止めて幸村が言った。
何も知らない赤也は、幸村に会って元気が出たのか、
それともただ単に腹が減っただけなのか。
スキップしながら、“お料理行進曲”を熱唱していた。
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